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DLさんの公開日記

2013年
07月13日
00:38
▼ヴィルトvsウェルツ▼

――まさか、降参を願い出るか?
突然の呼びかけに、ウェルツは指を弦に乗せたまま一旦動作を静止する。しかし
「楽器はもっと丁寧に扱う物じゃないのか?」
毅然とした態度でヴィルトは指摘した。
「何かと思えば…どう扱おうが俺の勝手だろ。レディは俺のモノだからな」
「違いない」
誇示するように答えるウェルツに、ヴィルトは警戒は解かぬまま薄く笑って見せる。何気無い素振りでアイオーンを――ライフルを弄びながら。
「それに、俺としてはレディを可愛がっているつもりなんだがなぁ?」
ウェルツはヴィルトの血が付着した右手の指に舌を這わせながら
「貴様も俺の物になれば、髪先からつま先まで可愛がってやるぞ?」
悪戯っぽく微笑んだ。
「……何故、そこまでオレに構う。お前になら、他にいくらでも得やすい獲物は居るだろう」
一瞬の静寂の後、ウェルツは腕を組む。
「…どうやら貴様は相当俺から逃れたいらしいな…だが諦めろ。貴様は無意識に俺を刺激しているんだ。その芳醇な血の香りといい、こうして俺に抵抗するところといい…」
言葉に余韻を持たせたところで、まるでヴィルトを招くかのように片手をゆったりと差し出す。
「例え他に良質な獲物が居ようが大した問題では無い。貰えるものは根こそぎ貰う。奪えるモノは全て奪うまでだ」
「なるほど、如何にも魔族らしい思考だ」
ヴィルトは呆れたように吐き捨て、今度は二本の双剣に姿を変えたアイオーンを、カシンッと打ち付けて、
「しかしオレも、黙って食われるのはごめんだ。それがお前を尚、煽ることになったとしてもな」
次は両端に刃のついた一本の剣「双刃」、そしてハルバードへと変形させる。
再びライフルの型を取った時、気付いた。これは…細くなった先に穴が開いている。手元にある引き金。この形状は……
「それでいい。心地よい心がけだ、ヴィルト。俺の気に召された事光栄に思うが良い」
(……誰がだ)
思っても、ウェルツさえ予測しているであろうそんな言葉を、態々口にする必要もない。
そんな中ウェルツは魔器レディアンスを片腕で縦に一回転させると、ヴィルトに狙いを定める。
「…あの男が貴様によこした武器は随分と面白い構造をしているようだな……その形状は好かんが」
魔器を構え直した――敵意の表明。
餌の捕捉を狙うその視線に、応えるようにヴィルトは不敵に笑って、
「そうだな……アルトには礼を言いたいね。お前には好かんかもしれんが――オレは、中々気に入っている」
アサルトライフル型、アイオーンの銃口を真っ直ぐにウェルツへ向ける。
「フン、嬉しそうに言ってくれる…そんな耳障りな音を立てる武器のどこがいい」
眉間に皴を寄せ目を細めるウェルツ。
「俺の演奏を雑音で妨げるなど以ての外だ。さっさと別の形態にせんと容赦せんぞ…!」
ウェルツは知っているようだが、ヴィルトの国にこんな武器は無い。恐らく大陸の何処を探しても無いだろう。が、使い方は何となく解る。
発動は、この、引き金(トリガー)。
「生憎オレは、音楽に興味が無い。そして、お前にもな」
それを、躊躇い無く引いた。



▼ウェルツ▼

――ズガンッ!

機械的な重量のある発砲音とほぼ同時に、髪留めのスカーフが解け長い髪が揺れる。
「…キッ…サマァ…」
不愉快だ。“コレ”だけは、不愉快でしかない。
「…いい度胸だ…ここで受けた不満は後に貴様で晴らさせて貰うぞ――『mestoーメストー』」
低い口調で呟くように言いながら弦を弾き、自らの周囲に刃を十本程出現させる。
「…さぁ…気が済むまで撃つがいい!!」
魔器の角度を変え体勢を低くすると、召喚した刃を追撃させるように周囲に纏いながらヴィルト目掛けて突進を仕掛けた!

ドガァ!!!

魔器を横薙ぎに大きく振るい、目標地点から一番近かった地面の突起ごと粉砕する!
突起は粉砕する際に宙へ薄く砂煙を散らした。


▼ヴィルト▼

「ぐ――っ!」
発射の勢いで石柱に背中から叩き付けられ、思わず声を漏らす。
振動が左肩に響く、やはり回復が甘かったようだが、気に掛けている暇はない。
先程の一発は反動が故に狙いも逸れたが、背に支えのある今なら――
「……」
今一度構えかけたところで、岩を薙ぎ払いながら突っ込んでくるウェルツを見てふと思い立ち、回避行動に出た。
形態をハルバードに戻し、
ドガァッ
手近な一本を破壊、その思ったより軽い手応えに、ヴィルトは続いて2本、3本と砕いて行く。
舞い上がる砂煙に、こちらも視界を遮られるが、同時に向こうからもこちらは見えない筈。


▼ウェルツ▼

――ハルバード。
岩を破壊する音の方がまだマシだ。
ヴィルトを視界に捉え、低空飛行で距離を詰めるウェルツの行く手にヴィルトが破壊した岩が崩れ落ちてくる。
「チッ、鬱陶しい」
ハープの先端を瓦礫の落下地点手前の地面に突き刺すと、高跳びの要領で前方へ向けた突進の勢いを真上へ移し、再び上空へ舞い上がる。
軽く衣服をはたきながら改めて地上を見下ろせば、既に一帯が濃い砂煙で覆われていた。ヴィルトを見失ったが、態々悪視界の中地上からライフルを使ってくる事はないだろう。
そしてヴィルトはウェルツに浮遊能力があり、遠距離戦を得意とする事を知っている。この状況でウェルツが今何処に居るかぐらい彼ならすぐ察しが付く筈だ。
「…さぁ、どう来る」
周囲に刃を浮遊させながらウェルツは何処か楽しそうに呟いた。


▼ヴィルト▼

「ラインカーム」
今度は同時に2個。肩や、他の傷を治癒させる。
そのままヴィルトは、恐らくウェルツが浮いているであろう場所の真下を通り過ぎ、ハルバードを両手で高く掲げる。
壊していて気が付いた。これは、魔力を吸って威力を増すタイプの武器。
アルトには魔力が無いと聞いた事が有る、ならば、中に動力源を入れてあるのだろう。
(そこに、オレの魔力を加えれば?)
試してみる価値はある。
手に込めた魔力が柄に吸い取られる感覚。振り下ろし、三度地面に叩き付ける。その瞬間、

ズアッ!

衝撃波で体が舞い上がる。
場所は、的中。ウェルツのやや後ろ、そう遠くない位置に現れた。
跳び上がった瞬間、形態変化はさせてある。ライフルだ。
風の流れを読んだか、瞬時に振り向くウェルツ。まともに受けてくれるとは思っていない――
ライフルを今度は左で構え、次に変化させるボタンに指を掛けつつ、その引き金を引いた。

▼ウェルツ▼

――俺を馬鹿にしているのか?
ライフルの形状に、ウェルツは苛立ちを滲ませた眼光で睨み付けながら指を鳴らした。
ウェルツの周囲に召喚されていた刃が一斉にヴィルトに向け放たれる!
そしてその瞬間ヴィルトがライフルの引金を引いた!

ズガンッ!!!

一度ヴィルトはこの銃器を使用している。彼の指の動きと、発射と着弾、この一連の拍数とリズムさえ掴んでいれば回避のタイミングは大体予測出来る。
ヴィルトの指の動きに合わせウェルツは身を翻し回避…――
――!?
回避すれば着弾する直線状の地点を目にした瞬間、ウェルツの動きと思考が凍りついた。
チィッ!
咄嗟に回避とは“逆方向”へ体を戻す!

ドォォン!!!

「ぐっ…!」
腹部に直撃した重い弾丸の衝撃に圧され、ウェルツは落下した。


▼ヴィルト▼

「何故――」
落ちていく様を見て、一瞬戸惑った。避けられるつもりで撃ったからだ。
凍りついたような刹那の表情……
迷いを振り切るように、形をハルバードに変えたアイオーンを、落下軌道に投げた!
「く、うっ……」
振り被ったことで、治り切っていない左肩の傷が引きつる。構うものか。
「風翠の刃!」
左では刀を抜きつつ、今度は右で風の魔石に後を追わせ、入れ違うように「メスト」。
キィッ カキィッ
迫りくる硝子片を、能う限り刀で払い落す。
打ち損なった数本の一部が腕を掠め、一部は両足に刺さった。
「……っ。ちまちまと……っ!」
ヴィルトには滞空手段が無い。地面に叩き付けられる前に、足元に風の呪文でクッションを作る。


▼ウェルツ▼

背に風の抵抗を感じる中、追撃のハルバードが眼前に迫る!
「ッ…小癪な…!」
痛みを表情に滲ませながらレディアンスを半円を描いて斜め下へ振り切り

ガキィン!

軌道を逸らさせつつ叩き落とした!
ハルバードの落下地点を確認したところですぐさま視線を戻し、投げられた魔石を識別する。
――あの“風の魔石”か。

『風翠の刃!』

呪文と同時に風が動く!密度を増した風の棍棒が周囲に四本、それらがウェルツに振り下ろされた!
しかし、何度か使われているこの魔石が内包する魔力量は既に把握済みだ。この魔石が生み出せる程度の攻撃ならば避けなくとも甚大な支障が出ることはない。

ゴォォ!

命中したのは二発。
まるで殴られたような衝撃が左脇腹に走ったが、威力は想定していた通りだった。術そのものの威力よりも、腹部の傷口に響いてくる痛みの方が邪魔だ。
続いて同じ威力の衝撃が右肩に走るが、ウェルツは気に留めずヴィルトへ視線を移す。

そして、自らに重力軽減を掛ける事で落下スピードを緩め、体勢を整えながら…ヴィルトが足元に風の呪文で、クッションを作り着地する寸前を見計らって――
『tremolo-トレモロ-!』
指を鳴らした。


▼ヴィルト▼

ウェルツの声と同時に、身に食い込んだ破片が振動する!
「う、ああああああっ!」
着地の衝撃は術で和らげたものの、突如走った苦痛に姿勢もままならず頽れる。
「こ、の……っ、やって、くれる……!」
蹲ったまま、素手で掴んで両足から引き抜き、乱暴に投げ捨てた。
右が深い。
顔を上げ、ウェルツを睨む。
向こうもそれなりにダメージは負ったようだが、後が無いのは、こちらの方だった。
上がりかけた息を整え、軽く深呼吸して、刀を斜めに構え直す。
(耐えてくれ……っ)
自らを鼓舞し、傷付いた足で地を蹴る。接近戦に持ち込めば、あるいは。


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