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DLさんの公開日記

2013年
12月25日
21:33
▼ヴィルトVSウェルツ▼

砂煙の裂け目からヴィルトが飛び出した!
ウェルツは薄く嗤う。
「成程、“いかにも貴様らしい思考だな”」
――だが、そうさせたのは俺ではなく今の貴様を支配している存在だ。
ザァッ!
刀が届く直前素早く身を翻し回避すると、目前に流れた銀髪を右で乱暴に掴み引っ張り上げる。
一抹の迷いも無く、その髪を切り落とすつもりかヴィルトは身を捻ろうとするが、
「ククッ、俺に背いた愚か者にフィナーレをくれてやるわ――!!」
疲労が故か遅れた反応を見逃さず、左手で額を鷲掴みにすると

ゴグァ!!

鬱憤を晴らすが如く、勢いのまま後頭部を床に叩き付けた!
「……か、は……っ」
声にならない叫びの直後、ヴィルトの全身から力が抜け、
(敵わ、な――……)
カラン、と、刀が、
その意識が、落ちた。
競奏曲についぞ訪れた、Fine(終止)――そして…

「気を失ったか」
――ヴィルトゥオーソによる独奏が始まる。

見下ろしながら、ウェルツは呟きを漏らし微笑んだ。
「これで解っただろう?所詮、無理を押しても粋がっても、貴様の脆弱さゆえ全て泡沫に帰すということがな」
ヴィルトに身を寄せて、顔を覗き込む。
鮮血で彩られた、気品のある端正な顔立ち。
美しい銀色の髪を軽く指で弄りながら、伏した身体を無造作に起こす。
「この程度で一体何を守れる。今の貴様は己が身さえ満足に保てんだろうが」
近場に転がる岩の残骸にもたせかけ、
「ただ良い様に喰われるだけだ」
頬を伝う血へ舌を添わす――…そのままゆっくりと下へ向けて這わせ、喉に差し掛かかった時、欲望のままに鋭利な牙を突き刺した。
柔らかな皮膚が破れ、熟した実が弾けたように、どろり、と生暖かい蜜が口内に流れ込む。
――…クン……ゴクン…
喉を鳴らして体内に流し込む。その音が響く度に、脳は快楽に酔いしれ理性を削ぎ落していく。
止めどなく溢れ出る渇望…それが満たされる快楽に溺れた彼は、もう、止まらない。

「――おい…さっさと目を醒まさんか。目を閉じた所で逃がしはせん、もっと俺を楽しませてみろッ!」
理想の獲物を眼前に豹変し、乱暴に首を締め上げて再び床に叩き付ける。

「もっと――貴様の戦慄を聞かせろッ!喚声を上げんか!!」
押し倒すと指をヴィルトの口へ無理矢理捩じ込み、牙は腹部の傷口に容赦なく喰らい付く。
意識を取り戻したかただの反射か、ヴィルトが咽返る。
弾みで腹部から流れた血が、よりウェルツの渇きを潤す――
「まだだ…もっと出せるだろう!?」
欲望に底はない。ヴィルトの衣服に手を掛け――
――ビリリリ!
中途半端に回復を掛けたのが仇になったか、乾いた血で張り付いた衣服を無理矢理引き剥がし左肩を露わにする!
再び傷に血が滲んだ。
「――っ……」
闇から引きずり戻されるように目覚めたヴィルトには、世界がくすんで映った。
眉を顰め、焦点を合わせると、視界より早く回復したのは体の感覚。
捕食される痛みと、挫折と……敵愾心。
意識を取り戻したことに気付かず未だ血を貪る吸血鬼に、ゆっくりと手を伸ばす。
なけなしの力で、その青い髪を掴む。
「――っ!?」
唇を離し、こちらへ向けたウェルツの目は、赫く澱んで。
こめかみから頬へ、腕の重さに任せ、首元、肩、と順に撫でるように色を染め変える。
「……この、血が……好き、なんだろう……?」
相応に気に入りらしいその髪を、いい気味とばかりに汚してやる。
束の間その行為を凝視していたウェルツの口元が、にたりと不気味に嗤った。
シャッ、と爪を伸ばし右腕を大きく振り上げ、

ドシュ!

左肩の生々しい傷口の上から強引に指を捻じ込ませた。
「~~~~っ!!」
きつく目を閉じて、苦悶の表情。
既に喚き立てる余力も残っていないのは承知。だからこそ、それ以上の反応を無理強いてしまう。
そのまま手首をじりじりと捻り、握るように傷口の内部に爪を立てると、耐え難い感覚に上体がびくん、と跳ねた。
この反応が、堪らない。
「…クク…フハハ…」
漏れる声は快哉に震える。
ズルリと引き抜くと、後を追うように血がとろりと溢れ、鎖骨へ流れた。
拡げられた傷口を指で弄びながら、鎖骨から首に掛けてを舌でなぞる。
牙から逃げるように体をずらすヴィルト。すると左手の傍に先程のダガーが転がっていることに気付いた。
指で引っ掛け、どうにかその手に乗せる。
(……握る力も、もう無いか……)
左手の袖には、そうだ、後一つ、風の魔石が残っていた。
夢中で首に喰らい付くウェルツ。
(――枯れた声で咆哮を――)
頭の中に呪文を巡らせる。
(研ぎ澄まされたその爪と牙を
 解き放て
 風よ
 爆ぜろ……ッ)
ヒュッと乾いた音を立て、一陣の風がダガーを吹き飛ばす。一直線に、ウェルツの首へ――

ザシュッ

痛みが不意を突き、反射的に立ち上がって数歩身を引く。
「…貴様っ…」
重量で狙いが僅かに下へ、ダガーは二の腕に突き立っていた。
眼光を飛ばした先のヴィルトからは、反応がない。
「………。」
痛みが、失われつつあった相対的な判断力を呼び起こす。
――目的は果たした。これ以上は、無意味だ。
「…フン」
腕からダガーを引き抜くと、それを片手にヴィルトに歩み寄り、顔を目掛けて振り下ろし――
ガキン!
傍の地に突き立てる。軽く彼の銀の髪を撫で、おもむろに立ち上がると、腕から流れる自らの血を指に絡め取って舐めた。
「…こいつの分は貴様に預けておいてやる――ヴィルト、貴様はやはり理想の獲物に相応しい。精々、無駄な足掻きをするがいい」
微笑みを浮かべたまま踵を返し、背を向ける。
「また、喰いに来てやる」

――SweetDream(いい夢を…)

ウェルツは歩みながら指を鳴らし、使い魔が展開した漆黒の空間の中へ姿を消す。そして、闇は徐々に薄れゆき、やがて消え去った…

残されたヴィルト。
「……は……はは……っ……」
何故か可笑しさが込み上げる。
それは、未だ吸血鬼一人に歯が立たない不甲斐無さへの嘲笑か、ここまでの傷を負うほど意地を張った聞き分けの無さへの憐憫か。
笑うだけで全身が引き裂かれるようだ。悔しさに床を殴ろうにも、腕を上げるどころか拳も作れない。
今はもう、どうでも良い。ただ休みたい。
重力に負けて、目を閉じる。
痛みに翻弄されながら、一つ大きく深呼吸。その吐息に乗せて、
「…………ち、く……しょう…………っ」
消え入りそうな声で、そう呟いた。


   【ヴィルトVSウェルツ ~Fine~ 】



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